The Song of Inanna イナンナの歌

小説

『西部の物語』第二部:牛追いの道と、その真実

オリジナル小説『西部の物語』第二部。群れとともに北へ向かう道、牛追いのリズム、群れを散らす嵐、川辺の狼、そしてジョセフがずっと抱えていた秘密。

2.1 牛追いの支度

まだ完全には明けきらないうちに、庭の物音で目が覚めた。

丸太小屋の外の風は朝の冷えを運んでいて、薄い灰のように顔に貼りつく。扉を押すと、蝶番が小さく鳴った。ブーツが砂利を踏んで、二度、かり、かり、と音を立てる。厩のほうではもうランタンが灯っていて、火が半分暗い庭で揺れていた。馬の鼻から白い息が塊になって浮かび、すぐに散る。遠くで牛の群れが低く鳴いていた。鈍い声だった。

支度が始まっていた。

父は庭の真ん中に立ち、上着を肩にかけ、帽子のつばを深く下ろしていた。手には紙が一枚。名前と賃金と馬が書かれている。

カウボーイはこの二日のうちに揃うことになっていた。

牛追いの隊は決して大人数にはならない。牛が多くて人が少なければ群れは散る。人が多ければ利益を食う。父が計算しているのを聞いたことがある。だいたい牛百頭につき最低ひとり見張りがつかないと、群れを道筋に押さえておけない。今回の頭数は少なくないから、最終的には八人から十人のあいだに落ち着く。押さえるには足り、帳簿を潰すほどではない。

これは算術であって、ロマンではない。

日が昇ると、町の者が次々にやってきた。軒下に立っていると、馬が庭の外で止まり、蹄鉄が地面を叩いて澄んだ音を立てるのが見えた。手綱が下働きに渡され、鞍具が柵のそばに立てかけられる。空気にはすぐ新しい匂いが混ざった。たばこ、汗、馬の熱、それに日に焼けた革。

カウボーイたちは庭の片側に立ち、柵にもたれる者もいれば、しゃがんでブーツを確かめる者もいた。つばの広い帽子を目まで下ろしている。腰のホルスターからは木の握りや金属がのぞく。銃は飾りではなく、道の上の道具だ。狼に、盗賊に、そして夜に手のつけられなくなった牛に対して。

彼らが天気や水場や道筋の話をしているのが聞こえた。どの道が草が多いか、どの川が荒いか。どの言葉も実際的で、釘のように一本ずつ地面に打ち込まれていく。

ジョセフもそのなかにいた。

早くもなく、遅くもなく現れた。馬は庭の外の少し南に繋いであり、人の輪からは離れている。まず、彼女が低い声で馬に話しかけているのが聞こえた。高くはないのに、はっきりしている。手綱を整える動きは速く、静かだった。上着はきちんとしていて、バンダナを首に結び、風と埃を外に締め出しているようだった。彼女はこちらを一度だけ見た。短く、笑いもせず、避けもせず。

あなたはすぐに視線をそらした。

雇用の話が最後の詰めに入った。父と数人の古株が賃金と役割を決めていく。前を探る者、両翼で群れを守る者、後ろで遅れた牛を追う者。あなたには意味が分かったし、頭のなかで隊列を並べることもできた。最後尾がいちばんきつく、夜は交代で牛の番もする。父が値段を押さえるのが聞こえた。口調は落ち着いていた。誰かが不服そうに鼻を鳴らし、仲間に止められた。最後に、双方が受け入れられるところで数字が決まった。

本当なら、あなたは胸を躍らせていいはずだった。

見慣れたこの土地を離れるのは初めてだ。川も、嵐も、夜の焚き火も、これから実際に起きることになる。夜の群れの息づかいや、壁のない草原の闇まで想像できた。その期待が胸で一度、火のように燃えた。

けれどすぐに、押さえ込まれた。

弟が呼び出されたのだ。

身体に合わない上着を着て、戸口に立ち、顔色は白かった。カウボーイたちを見ると一瞬目を輝かせ、すぐにうつむいて、咳を喉で押し殺した。父が彼の肩に手を置いた。力は強くないのに、確かだった。

それから、父はあなたを見た。

「おまえたちも一緒に来い」と彼は言った。

風が西から庭を抜け、ランタンの炎が揺れた。あなたは固まった。

父は多くを説明しなかったが、理由は口にした。今年は草が悪い。春の雨が遅く、草の育ちが薄く、いくつかの区画ではもう灰白色の土が見えている。それが何を意味するかは分かっていた。夏に日照りが来れば、牧草地は冬を越せない。牛が食えなければ、値がつかない。もっと悪いのは、道中で草不足や虫害に当たれば、群れごとこの商売を潰すことだ。西部の空は、決して前もって知らせてくれない。

父はまた、これは「おまえたちに見せるためだ」とも言った。

「家畜を、市場を、人を分かるようになれ」と父は言い、その目は帳簿を見るようにあなたに落ちた。「土地は祈って守れるものじゃない」

「おまえたち」という言葉を聞いても、あなたは本当には緩まなかった。

弟は跡取りだ。あなたはただ、近づくことを許されただけ。道に連れ出されるのも、世界を見せるためとはかぎらない。残る理由をもっとよく分からせるためかもしれない。

夕方には、馬はみな繋がれた。庭は音でいっぱいだった。刃を研ぐ音、銃の機関の音、鞍下の毛布を叩いて埃が立つ音。夕日がすべてを赤みがかった色に染めた。

あなたは戸口に立ち、麻縄の切れ端を手で握っていた。縄はざらついていて、指の胼胝をこする。父がこちらへ来て、あなたと弟の前で止まるのが見えた。その影は長く引かれて、ちょうどあなたの足もとに落ちた。一本の道のように。

父は言った。「おまえたちに、世界を見せてやる機会をやる」

その言葉が落ちたとき、遠くで牛が低く鳴いた。ふいに分かった。本当の出立はまだ始まっていない。けれどあなたはもう、戸口まで押し出されていた。

2.2 道に出た最初の日々

三日目の朝、あなたは冷えのなかで目を覚ました。

夜はまだ完全には退いていない。草原の窪みには冷たい空気が溜まり、地面に沿って流れていた。毛布の端をめくると、指先が空気に触れた瞬間、すぐに引っ込めた。野営地ではもう誰かが起きている。ブーツが草を踏み、小さく砕ける音がした。少し離れたところで馬が身体を動かし、革がこすれ、ときおり低く鼻を鳴らす。

この時代、牛追いは太陽を待たない。

遅く起きれば、牛は真昼の暑さで苛立ち、暴走しやすくなる。人のほうも早く乾く。この道は快適さのために設計されてはいない。どうにか歩き切るためだけにある。

賄いが最初に火を起こす。

ブーツの先で昨夜の灰をかき分けると、下に埋まっていた火種が一度明るくなり、新しい乾いた薪に燃え移った。木が弾け、煙がまっすぐ立ちのぼって、朝の風に東へ引かれていく。コーヒー豆が鍋に入れられ、苦い匂いがすぐに広がった。重く硬い匂いなのに、人を眠りから引きずり出してくれる。

あなたは起きあがって毛布を巻いた。毛布は適当に詰めてはいけない。夜に雨が降って濡れれば、もう乾かすのがひどく難しくなる。きつく縛って、荷の外側に結びつけることを覚えた。道の上には、うっかりのための余分な場所はない。

牛の群れはまだ伏せていた。

何百頭もが寄り集まって、息づかいが一続きになり、ゆっくり上下している。身体の熱と草の生臭さが混ざった匂いがした。最初の合図が出るまで、彼らは立たない。驚かせてはいけない。急いでもいけない。

牛追いは追い立てることではなく、導くことだ。隊が動きはじめると、すべてに秩序があった。

隊長が先頭を行き、方向を選び、地形を読む。低くぬかるんだ場所を避け、どこに水があるかを覚えていなければならない。どの日にどの道を行くべきかを教えてくれる地図はない。あるのは経験だけだ。一度間違えれば、半日回り道になることもある。

外側のカウボーイが散って、緩いのに動き続ける柵のようになる。左翼を持つ者、右翼を持つ者。群れが横へこぼれないようにする。後ろの「最後尾」がいちばんつらい。遅れた牛を戻さなければならない。馬の群れは後方に置かれ、専門の者が世話をする。予備の馬は命だ。一頭潰れれば、人は歩くしかない。

鞭が空を切る音が聞こえた。打つためではなく、知らせるためだ。合図の声も聞こえた。低く、長く引く。牛は言葉は分からないが、拍は分かる。

一日に十マイルから十五マイル。

それは数えきれないほど試されて出た距離だった。速く歩けば牛は肉を落とす。遅ければ鉄道の終点に間に合わず、値が下がる。群れは機械ではない。反芻し、水を飲み、休む時間が要る。このリズムが人のためではなく、家畜のためにあることに、あなたは初めて気づいた。

昼に止まるころには、暑さが下りてきていた。

太陽がまっすぐ照りつけ、遮るものはない。うつむいて食べていると、汗が背中を伝って落ちる。賄いが簡単な火に鍋をかけた。豆と塩漬け肉が湯のなかで転がり、鈍い音を立てる。とうもろこしのパンが鉄板の上で焼かれ、すぐに硬くなった。干し肉を裂くと、繊維が歯のあいだで引かれた。

食べ物は単調だった。

コーヒーは欠かせない。豆と塩漬け肉があれば一日もつ。乾いたパンはゆっくり噛む。重さのためでもあり、保存のためでもある。この時代、保存の技術はまだ原始的で、密封の包みも缶詰もなく、新しいものは長くは運べない。チーズ、生の肉、農場の野菜。そういうものはあなたの生活から遠ざかり、代わりに塩漬け肉と干し豆ととうもろこしが来た。

あなたは賄いを手伝い、火を足し、水を撒き、塩を振った。彼は多くは話さず、うなずくだけだった。道の上では、働く者がひとり増えるのは、混乱がひとつ減ることだ。

午後もまた前へ進む。

牛は迷う。一頭のときもあれば、小さな群れのときもある。横へ寄りはじめると、外側の者がすぐに位置を埋める。蹄が速くなり、地面が震える。投げ縄が振りあげられ、輪が空中で開き、すぐに締まる。

あなたは、カウボーイごとのやり方の違いが分かるようになってきた。

怒鳴る者。 鞭に頼る者。 馬に頼る者。

ジョセフは最後の型だった。

その位置はいつも安定していた。いちばん前でもなく、いちばん目立つ場所でもない。牛が動けば、彼女はもう、いるべきところにいる。動きに大げさなところはほとんどない。多くの場合は、先に線を調整して、牛が自分から列に戻るようにしていた。手綱をほとんど引かないことにも気づいた。脚を使い、身体を使い、馬と一緒に回る。

それは最初の試験での運ではない。長く道の上にいた者のやり方だった。

一日目の行程が終わるころ、あなたの身体は抗議を始めていた。

脚が張り、腰が固くなる。馬を下りるとき、ブーツが地面に触れた瞬間、足の裏が一瞬空になったようだった。野営地がまた張られ、火がまた点けられる。夜風が来て、昼の熱を一枚ずつ剝がしていく。

夜、牛の群れは囲われた。

交代で夜番に立つ。低く歌う者もいた。節は単純で、長く引き伸ばされる。その歌は美しさのためではない。ここに人がいると牛に知らせるためであり、歌う者が眠らないためでもあった。星空は近く、そして冷たかった。あなたは毛布をきつく巻き、馬がときおり身じろぎするのを聞いた。

これが牛追いの日常だった。

二日目、三日目と、リズムが定まってくる。早く起きる。食べる。歩く。止まる。

疲れは少しずつ秩序に場所を譲った。あなたは一歩ごとに身体の不調を考えるのをやめ、風向きや雲や地形の変化に気を配るようになった。牛の群れの声を聞いて、落ち着いているのか、荒れそうなのかを聞き分けられるようになった。

そして、ますます頻繁にジョセフに目が行くようになった。彼女が何かをわざとしたからではない。ただ、いつも正しい位置にいたからだ。

夜、地面に横になった。火はもう赤い光だけになっていた。目を閉じても、すぐには眠れなかった。

暗がりのなかで、あなたは彼女を見つづけていた。

2.3 わたしを見て

五日目の午後、草原の風がすっかり変わった。

それまで西から吹いていた風が回り込み、地表に沿って低く払うように吹いてきて、熱を運び、牛の匂いを隊のなかへ押し戻した。空気はもう滑らかには流れない。埃が何度も舞いあがっては落ち、ブーツと裾に貼りつく。肌が汗ばんでいるのに、その湿りを連れていってくれる風はなかった。

これは牛追いで、いちばん問題が起きやすい時だ。

牛はもう何日も歩いて、体力の消耗が出はじめている。長く歩けば嗅覚が鈍り、判断が遅くなる。一頭が立ちどまれば、後ろが押し寄せる。一頭が逸れれば、隣も散る。前のほうで合図が細かくなり、鞭が空を切る回数が増え、短い破裂音が次々に響いた。

混乱は一瞬で始まった。

小さな群れが何かに驚いて、勢いよく右へ逸れた。暴走ではないが、ためらいを含んだ焦りがあった。外側の線が裂けて隙間ができ、後ろの牛がすぐにそこから外へ流れ出す。蹄の音が重くなり、地面が震えはじめた。

誰かが大声を上げた。

荒く、急いた、命令と苛立ちの混じった声。空に鞭を鳴らす者、牛の背に直接打ちおろす者。鞭と怒声が重なって、かえって牛はさらに乱れた。あるカウボーイが勢いよく馬を駆ったが、線の読みが遅く、馬は急な旋回を強いられて、危うく踏み外しかけた。

そのとき、ジョセフの位置が変わったことに気づいた。

彼女はいちばん乱れているところへは向かわなかった。逆に、斜め後ろから入り、群れの外縁に沿って、より短く、より冷静な線を取った。馬の速度は急には上げず、ただ安定して速めていく。蹄の音は変わらず均等だった。身体は馬の背に沿い、重心は低く、脚は締まっていて、動きは引き締まっているのに硬くはない。

あなたにはよく見えた。

彼女は群れ全体を相手にしなかった。いちばん外側の一頭に狙いを定めた。その一頭が落ち着けば、後ろは自然と遅くなる。彼女はちょうどいい位置に入った。迫りすぎもせず、退きもせず、ちょうど行く手を塞ぐ。その牛が一瞬ためらい、歩みが緩み、頭が下がった。

ためらいは、群れのなかでは伝染する。

二頭目、三頭目も速度を落としはじめ、開いていた隙間が少しずつ閉じていった。そこで初めてジョセフは手を上げ、鞭を一度振った。とはいえ、先が空を切るだけで、澄んではいるが大げさでない音を立てただけだ。その音は脅しではなく、はっきりした境界のようだった。

それから彼女は合図をひとつ出した。

とても低く、短く、風にほとんど呑まれてしまう声だったのに、牛には十分届いていた。彼女が繰り返しもせず、声を張りもしないことに気づいた。群れに必要なのは刺激をもっと与えることではなく、寄りかかれる方向なのだと、初めから知っていたようだった。

混乱は、そうやって押し戻された。

誰も歓声を上げなかった。誰もわざわざ彼女を見なかった。終わるのが速すぎて、多くの者はまださっきの緊張のなかにいた。

けれどあなたは、その一部始終をはっきり見ていた。最初の一頭が線を外れてから、隊がふたたび閉じるまで、余分な動作はほとんどなかった。

胸のなかでずっと張っていた息が、ゆっくり降りた。

まわりの音がまた雑になる。誰かが悪態をついた。面目を取り戻すように。誰かが振り返って、あなたのほうへ軽薄な一言を投げた。笑いを含んだ口調で、緊張を冗談に変える癖のように。中身は聞き取れなかったのに、あの聞き慣れた調子だけははっきり分かった。町でも牧場でも、ずっと聞いてきた声だ。

あなたは応じなかった。

視線はまだジョセフの上にあった。

彼女はもう元の位置に戻っていた。水が一滴、川筋に戻るように。群れの縁がまた安定したのを確かめると、そのまま前へ進んだ。振り返らず、誰の反応も待たなかった。動きの終わり方があまりに清潔で、さっきのことが道の上の小さな起伏にすぎなかったかのようだった。

それが意外だった。

こういうときこそ、彼女は切れ味を見せるものだと思っていた。ひとつ余計な動きをしてでも、誰かに気づかせるものだと。けれど彼女はしなかった。その加減はきわめて正確で、あなたがようやく理解しはじめたばかりの規則を、厳密に守っているようだった。

この道の上に、個人の見せ場はない。あるのは群れにとっての機能だけだ。

牛を抑えられるか、道筋を判断できるか、損耗を最小にして進めるか。それ以外のすべて——生まれ、見た目、そして性別さえ——は余分な危険にすぎない。そしてふいに分かった。ジョセフが自分の違いを、普通の人には見えない危機を見抜く力までも隠さなければならないのは、彼女が弱いからではない。「余分なもの」はどんなものでも、この道の上では脅威として拡大されてしまうからだ。

これが、十九世紀西部の硬い実用主義だった。

夕方に野営を張るころ、空気はようやく冷えた。火が起こされ、鉄鍋がかけられ、豆が湯のなかで転がって、鈍く安定した音を立てる。煙がまっすぐ立ちのぼり、夜風に遠くへ引かれていく。牛の群れがまた寄り集まり、息づかいが穏やかになっていった。

あなたは配給を手伝っていた。手のなかには自分の分があった。

乾いたパン、豆、干し肉。袋から乾いた果物をひとつかみ取り出す。出発前に持ってきたもので、もう多くは残っていない。乾いた果物は軽いのに甘く、噛むと水気があって、道の上ではめずらしい味だった。

あなたは、手を止めた。

まわりを見た。誰もこちらを見ていない。

ジョセフが荷を置いている場所へ行った。彼女の持ち物は相変わらず少なく、きちんと並べてある。あなたはその乾いた果物をそっと彼女の食糧袋に入れ、口をまた縛った。結び目はきつく。

立ちあがったとき、鼓動がいつもより少し速かった。

彼女が気づくかどうかは分からない。どうして自分がこんなことをしたのかも、分からなかった。

夜、毛布に戻って横になった。火の光はもう落ちて、赤い残り火だけになっている。牛の群れが闇のなかで静まっていく。目を閉じても、はっきりと目が冴えていた。

あなたの偏見には、もう裂け目が入っていた。 そしてあなたはまだ、その向こうにあるものを見る用意ができていなかった。

2.4 雨と雷と、狼の群れ

そこに至るまで、日々は何週間も静かに進んでいた。

道は足もとでゆっくり開き、またゆっくり閉じていく。毎日のリズムはほとんど同じだった。明ける前に起き、暮れてから野営を張る。草原は緯度によって色を変え、川は浅いときも増水するときもあったが、たいていの日は単調なほど静かだった。牛は道筋に慣れ、合図を繰り返す必要もなくなり、隊の呼吸も合ってきた。

あなたとジョセフのあいだも、そうだった。

はっきりした瞬間があったわけではない。ただ、彼女がそこにいることに慣れていった。外側に彼女の馬影を見ることに、混乱が起きる前に彼女がふさわしい位置に立っていることに。彼女は多くを話さず、父の見ていないところであなたに近づくこともなかった。

ほかのカウボーイたちは違った。

水袋を渡すときに一秒長く止まる。あなたが通ると意味の取りにくい一言を投げる。口調は笑っているのに、目つきは粘つく。あなたは受け答えしないことを覚え、父の視線の届く範囲で動くことを覚えた。それでもそういうものは灰のように、いつもあなたに降りかかった。

ジョセフは違った。

彼女があなたと話すのは、いつも道のこと、牛のこと、天気のこと。触れもしないし、探りもしない。あなたを見る目は短く、隊のなかの誰を見るのとも同じだった。だからこそ、あなたは彼女のそばでは緩んでいられた。

小さなことにも気を配るようになった。

水袋を渡すときに栓をきつく締める。配給のとき、なんとなく、しっかりしていそうな乾いたパンを彼女の分にする。そういうことを口に出したことはない。けれど、彼女が気づいているのは分かっていた。

その静けさは、長く続きすぎた。

道がいつまでもこうは続かないことを、あなたはほとんど忘れていた。

一か月後、夏が来て、あなたたちはまだ道の上にいた。夏のある夕方、空の色が四半時もしないうちに変わった。

まず光が落ちた。誰かが高いところから空を覆ったように。風が一瞬止み、それから折り返してきて、北から一気に草原にぶつかった。はっきりと湿った匂いがした。顔を上げたとき、最初の雷が遠くで転がりはじめていた。低く長く、地の底から押してくるように。

「大雨が来るぞ!」 誰かが叫んだ。

その声が終わらないうちに、雨が叩きつけてきた。

初めは数滴、帽子のつばと鞍具を打ち、すぐに一面につながった。雨は密で重く、切れ目がほとんどない。地面はみるみる柔らかくなり、ブーツを下ろすと吸いつかれ、泥水が脛に跳ねて、身を切るように冷たかった。

稲妻が空を裂いた。

白い光が一瞬で草原を照らし、牛の輪郭も、人の影も、低い地形も、すべてが露わになる。続いて雷が地面すれすれに落ちてきて、胸が塞がるほどに震えた。

牛が荒れはじめた。

雨が背を伝って流れ、雷と閃光で方向が分からなくなる。低い唸りがあちこちで上がり、押さえ込まれていた緊張がいっせいに返ってきた。道はぬかるみ、蹄が滑り、隊の速度は落ちるしかなかった。

隊長は予備の馬群を高いほうへ移すのに手を取られていた。注意が割かれ、外側の守りに隙ができた。

右側から牛が一頭抜け出すのが見えた。

驚いて本能的に方向を外れ、より低いほうへ向かっていく。あなたはほとんど考えず、すぐに馬を駆って追った。雨が顔に叩きつけて視界が潰れる。あなたはその牛だけを見ていて、自分が本隊からどれほど離れたかに気づいていなかった。

地形が下がりはじめた。

雨のなかで水音がはっきりしてくる。川だ。水位が上がり、岸は削られて柔らかくなっている。その牛は岸辺で止まり、水に入るのを怖がって、苛立たしげに蹄を踏んでいた。

近づこうとしたとき、ふいに別の音が聞こえた。低く、長く、川の向こう岸から。

雷でも、風でもない。

狼の遠吠えだった。

心臓が落ちた。稲妻がまた光ったとき、あなたはそれを見た。数頭の狼が少し高い岸に立っている。毛は雨に濡れて身体に貼りつき、目は白い光のなかで冷たく反射していた。すぐには迫ってこない。ただ立って、待っている。

自分が近づきすぎたと気づいた。

馬の頭を返そうとして、足もとが滑った。泥が一塊崩れ、身体ごと均衡を失い、鞍から落ちた。冷たい水と泥がすぐに押し寄せ、喉に入ってむせた。もがいて起きようとして、また踏み外し、半身が川に引き込まれた。

狼の声が少し近づいた。

鼓動が耳のそばで弾け、雷さえ覆いそうだった。叫ぼうとして、声が雨に呑まれることに気づいた。

銃声が響いたのは、そのときだ。

一発。切れ味よく、はっきりと、雨の帳をまっすぐ裂いた。いちばん前にいた狼が激しく後退し、草のなかへ倒れた。二発目が続き、弾は岸の泥に食い込んで水しぶきを上げた。

狼の群れがたちまち騒ぎ、低く唸りながら退いていった。

顔を上げると、ジョセフが雨のなかから駆け出してくるのが見えた。

走るのが速い。ブーツが泥水を踏み、水が跳ねる。銃はしっかり構えられ、腕にためらいはひとつもない。彼女はあなたと川のあいだに立った。その位置は、あらかじめ判断していたかのように正確だった。

「動くな」と彼女はあなたに言った。

声は高くないのに、すべてを押さえた。

狼の群れが十分遠ざかったのを確かめてから、彼女は銃を収め、早足であなたのそばに来た。上着を脱ぐ動きは手際がよく、泥の跳ねた布を川の水でさっと振り洗いした。雨が流れ落ち、上着が彼女の身体に貼りついた。

あなたは、見た。

一瞬の見間違いではない。

濡れたシャツが身体にぴたりと貼りつき、その線ははっきりしていて、取り違えようがなかった。少年の輪郭ではない。男の身体でもない。雷がまた炸裂したのに、あなたには何も聞こえなかった。

ジョセフの手が、その瞬間止まった。

顔を上げ、ちょうどあなたの視線とぶつかった。

その目の変化が見えた。ごくわずかな揺れから、きわめて速い冷静へ。彼女はすぐには口を開かず、ただあなたを見ていた。あなたが叫ぶかどうか、退くかどうか、この発見を危険に変えるかどうかを確かめるように。

雨は降りつづけ、川は上がりつづける。

いくつか呼吸をしてから、彼女は低く言った。

「怪我は?」

口調は落ち着いていたのに、これまで聞いたことのない張りが一枚重なっていた。

あなたは雨のなかに立ち、全身が冷えているのに、鼓動だけがおかしいほど速かった。この瞬間から、何もかもが違ってしまったのだと分かっていた。

彼女は少年ではない。

そして彼女は、あなたが見てしまったことを知っている。

2.5 川辺で、彼女の秘密

その夜、もう先へは進まなかった。

大雨のあとに残ったのは、すっかり洗われた冷たさだった。川は高く増水し、水面が夜のなかをゆっくり流れて、低く続く音を立てている。野営地は泥を避けて、少し高い岸辺に移された。焚き火をつけたとき、薪にはまだ水気が残っていて、炎は勢いなく、ただ辛抱強く燃え、ときおり鈍い音を立てた。

牛の群れは遠くに囲われ、もう静まっていた。夜番は足音を落とし、合図の声もまばらになった。狼は二度と現れず、どこからともなく遠い反響がときおり届くだけだった。とても遠く、とても空っぽな響きだった。

あなたは火のそばに座り、半乾きの上着を羽織っていた。布が肌に貼りつき、冷えがゆっくり染みてくる。炎の熱は、ふたりのあいだのこの小さな場所を照らすだけで、その外はもう、濡れた黒い草原だった。

ジョセフは向かいに座っていた。

上着はもう着直していたが、湿りは抜けきっていない。髪は雨に濡れて鬢に貼りつき、いつもより色が濃い。彼女はすぐには口を開かず、枝で火をつついて、炎を安定させていた。火の粉が跳ね、すぐに落ちた。

ふたりのあいだの距離は遠くない。互いの呼吸が聞こえるほど近いのに、どちらも先に話さなかった。

背後で川が流れている。向きははっきりしていた。北から南へ。その音は、ずっと歩きつづけている道のようで、沈黙を張りつめさせずにいてくれた。

「見たんだろう」 ジョセフがようやく口を開いた。

声は低く、探りも、言い訳もなかった。もう起きてしまって取り消せないことを述べるように。

あなたはうなずいた。

その動きは小さかったのに、かなりの力を要した。彼女に何を言ってほしいのかは分からない。けれど、何も起きなかったふりをこれ以上したくないことは分かっていた。

ジョセフはあなたを一度見て、すぐに視線を炎に戻した。

「知られるつもりはなかった」と彼女は言った。

炎が顔に映って、輪郭を明るくしたり暗くしたりする。あなたは初めて気づいた。彼女の表情は、想像していたような気楽さではない。暴かれて慌てているのではなかった。むしろ、長く警戒を保ちつづけた人間が、ようやく少しだけ緩められた疲れに近かった。

「母は先住民だった」と彼女は続けた。

そう言うときの口調は平らで、わざと落としも、上げもしなかった。心のなかで何度も繰り返してきたことを口にするように。

「わたしは母の一族のなかで育った。父が誰かは知らない。誰も本当には気にしなかった」 彼女は一度言葉を切り、崩れた薪を枝でまっすぐに直した。「ああいう場所では、血のほうが名前より大事だ。誰の子かで、どこに置かれるかが決まる」

火のなかで軽い音がした。夜風が川面から吹いてきて、ふたりのあいだの空き地を渡っていく。

母のことを話す彼女には、懐かしさも恨みもなかった。とうに歩き終えた道を説明しているようだった。

「少し大きくなると、縁談を決められはじめた」 口の端が動いたが、笑いにはならない。「好きだからじゃない。ちょうどよかったからだ。血筋が合う、関係が合う。ある人たちにとっては、それで十分なんだ」

彼女の言うことが本当なのは分かっていた。似たような話は聞いたことがある。ただ、それが彼女の口から、こんなに静かに出てくるとは思っていなかった。

「わたしだけじゃない」と彼女は続けた。「わたしみたいな女は、よく橋にされる。部族と部族をつなぐために、あるいは外の人間とつなぐために」彼女は少し間を置き、声をさらに落とした。「わたしは、その橋になりたくなかった」

火が弾け、内側へ少し崩れた。光が落ち、またゆっくり安定した。

「だから、逃げた」 彼女はごく簡単に言った。

けれど、それが簡単でなかったことは想像がついた。

「白人の土地なら違うと思っていた」彼女は顔を上げ、短くあなたを見た。避けはしなかった。「あとで分かった。やり方が変わっただけだって。結婚して、落ち着いて、見張られる。女であるかぎり、道はだいたい同じだ」

彼女はしばらく黙った。川の音がその空白を埋めた。遠くで牛がときおり蹄を動かす音が、かすかに聞こえる。

「髪を切って、服を変えて、あいつらみたいに歩いて、しゃべって、考えるのを覚えて……最初は、止められないためだけだった。あとで分かった。そうやって歩けば、道は本当に広くなる」

そう言う口調に得意げなところはなく、冷静な確認だけがあった。

あなたは彼女を見て、ふいに気づいた。これまで自分が下してきた判断は、どれも軽すぎた。

彼女は放縦でもなければ、軽薄でもない。

その選択は冒険のためではないし、ましてや目立つためでもない。きわめてはっきりした逃亡だった。ひとりの人間から、ひとつの部族から逃げたのではなく、あらかじめ用意されていた運命ひとそろいから逃げたのだ。

あなたは、ゆっくりと深い震えを感じた。

恐れでもなく、同情でもない。心のなかの何かが、場所を動かされたようだった。

あなたはずっと、世界の規則は動かないものだと思ってきた。父、土地、結婚、相続。あなたはそのなかに配置されるだけだった。けれどいま、目の前に座っている人が、自分の身体と時間で証明している。その規則は迂回できるのだと。代償は大きいが、不可能ではないのだと。

炎がだんだん小さくなった。

夜が深まり、雲のあいだから星の光が出て、川面に途切れ途切れに映った。ふたりの距離は変わらないのに、もう、あいだに一枚何かを挟んでいる感じはしなかった。

ジョセフはそれ以上何も言わなかった。

もう話し終えていた。秘密をあなたの前に置いて、何も求めず、反応も要求しなかった。

あなたはそこに座って、川が闇を流れていく音を聞いていた。この瞬間から、心のなかの世界がもう完全には安定していないことを、あなたは知っていた。

それは、揺れはじめていた。

2.6 町での一幕

町が見えた。

それはまず音として現れた。鉄を打つ音が途切れ途切れに低いほうから届く。続いて人の声、馬のいななき、牛の鳴き声、そして酒場から漏れる笑い。さらに進むと道が柔らかくなり、草は踏まれて泥になっていた。轍が幾筋も重なり、水が溜まって、灰白色の空を映している。

本当の都市ではない。鉄道沿いに伸びた、土埃の一本道にすぎない。

1875年のアメリカ西部には、こういう町が数えきれないほどあった。どれもだいたい同じ造りだ。板張りの店、蹄鉄屋、雑貨屋、そして看板の傾いた酒場が一軒。空気には干し草と馬糞と粗悪な酒の匂いが混じっている。

父と隊長は、補給と値段の交渉に町の商人のところへ行った。あなたと弟は外に残り、カウボーイたちが潮のように散っていくのを見ていた。匂いは雑多だった。できたてのチーズの酸味。干し肉の塩気。釘と蹄鉄の金属。そして酒。濃くて、酒場の入口から通りの真ん中まで見えない線が引かれているようだった。

人々の視線はカウボーイの上には短くとどまり、あなたの上には一拍長く残った。その見方が分かる。敵意ではなく、値踏みに近い。おまえはどこの人間か、どこへ行くべきなのか。

路地では、女たちが日陰に立ち、スカートをつまんで、眉をひそめてそれを眺めていた。ここは文明のふちだ。そして、男たちが一時的に責任から降りる場所でもある。

ふいに分かった。町はあなたたちを歓迎してはいない。それでも、必要としている。

カウボーイの金。牛の群れが運んでくる商い。そして、通り過ぎていく短いにぎわいを。

もう酒場へ向かった者もいた。

扉が押し開かれると、音楽と笑い声がどっと溢れ出す。なかは薄暗く、空気はもっと熱い。誰かがジョセフの名を呼ぶのが聞こえた。馴れ馴れしいからかいの調子で。

「おい、色男」

誰かが彼女に口笛を吹いた。「一緒に遊びに行こうぜ。金が入ったんだろ、間抜け。ここの娘は牛よりずっと優しいぞ」

男たちは笑いながら、肘で彼女を小突き、通りの向こうのもっと暗い家を指した。その家の窓は半分閉じられ、カーテンの色だけが鮮やかで、まわりの泥と噛み合っていなかった。

彼らが何を言っているかは分かった。

こういう男たちの目には、娼館は「文明」の一部だった。草原から制度のなかへ入るための敷居だ。そこへ入りさえすれば、認められ、受け入れられ、この規則の一部になれる。

あなたはジョセフを見た。

彼女はまっすぐ立っていて、その通りへは近づかなかった。顔色は変わらないのに、肩の線がわずかに張ったのが見て取れた。ためらいではない。警戒だ。あの扉の向こうが何を意味するかを、彼女は誰よりも知っている。

「なんだ、照れてんのか?」別のカウボーイが彼女を押した。「おまえみたいなのは、きっと大人気だぜ」

その瞬間、なぜか胸が締めつけられた。

彼らが話しているのは彼女という人間ではない。ジョセフが属していると彼らが思い込んでいる位置のことだった。

あなたは歩いていって、彼女の横に立った。

「この人はわたしの補給を運ぶの」とあなたは言った。声は思っていたより落ち着いていた。「父が残るように言ったから」

いくつかの目がこちらを向いた。

声は大きくないのに、十分はっきりしていた。酒場の入口の笑い声が一瞬止まる。眉を上げる者もいれば、初めてあなたをまともに見るような顔をする者もいた。

「あんたが代わりに言うのか?」 誰かが笑った。からかう調子で。

あなたはその場から動かなかった。泥水がブーツの底からゆっくり染みあがってきて、冷たい。自分の鼓動を感じながら、視線はそらさなかった。

「行かないわ」ともう一度言った。

空気が急におかしくなった。

「へえ?」 誰かが笑った。「お嬢さんが気に入っちまったか」

その笑いには、子どものころから知っているものが混じっていた。あなたたちをまとめて決められた枠に押し込む、あの軽い蔑みだ。

ジョセフが顔を上げ、あなたを見た。その視線は短かったが、声のない問いのようだった。

あなたは退かなかった。

「この人は、この隊でいちばんいい働き手のひとりよ」とあなたは言った。「あなたたちの慰みものじゃない」

その瞬間、自分の鼓動が酒場の音楽より大きく聞こえた。

カウボーイたちは肩をすくめた。

彼らにとっては、ただの幕間にすぎない。酒場に入る者、蹄鉄屋へ行く者。笑い声はすぐにまた上がり、何事もなかったかのようだった。

けれど、何かが見られてしまったのは分かっていた。父がこちらへ歩いてきていたからだ。

父はあなたの後ろに立った。影が足もとに落ちる。振り返らなくても、何を見ているかは分かった。声はごく低く、あなたひとりに向けられていた。

「自分の立場をわきまえろ」

子どものころからずっと聞いてきた言葉だ。説明はいらない。

意味はこうだ。おまえは誰の娘で、いずれ誰の妻になり、どこに立つべきで、何に口を出してはいけないのか。

通りの音が急に遠くなった。胸から熱が上がってくるのを感じた。衝動ではない。長く押さえつけられていた何かが、ようやく出口を見つけたのだ。

あなたは振り返り、父を見た。

「自分が何をしているかは、わかってる」とあなたは言った。

口にしたとき、声は震えなかった。こんなに落ち着いて言えることに、自分でも少し驚いた。

父は一瞬、止まった。

彼はあなたを見た。とうに決まっているはずの位置を、もう一度確かめるように。通りの泥水が光を返して、その顔をはっきり照らしていた。

しばらくして、父は結局何も言わなかった。そのまま背を向けて歩き去り、何か怒鳴りながら、道端の水桶を蹴り倒した。その後ろについていったデイヴィッドは身を震わせたが、やはり黙って、父の歩みについていった。母が死んでから、父は口数が減っていた。あなたにも、デイヴィッドにも。

あなたはその場に立ったまま、脚が少し頼りなくなるのを感じたが、退かなかった。ジョセフはまだ隣にいた。触れ合ってはいないのに、距離はこれまでのどのときよりも近かった。

夜がゆっくり降りてくる。

酒場の灯りが点き、音が大きくなる。町は別のリズムに入っていく。けれどあなたには、もう戻れないものがあることが、はっきり分かっていた。

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