The Song of Inanna イナンナの歌

小説

『西部の物語』第一部:牛の群れと、娘たちの季節

オリジナル小説『西部の物語』第一部。1875年の春、平原のふちの牧場。帳簿をつける牧場主の娘は、父についてカウボーイの雇い場へ行き、自分の知っている何にも属さない若い乗り手を見る。

いまは十九世紀の終わり、正確に言えば1875年の春。南北戦争が終わり、アメリカ政府はホームステッド法を成立させて、白人の家族が西へ移り、土地を占め、農場を作ることを後押ししていた。

のちの人々は、この時代を「牛追いの時代」と呼ぶ。

ここであなたは、牧場主の娘として、家と土地に縛られた女の人生のなかに、ひとつありえた選択を見ることになる。

1.1 牛追いの前の季節

朝の湿った空気のなかで、貝殻のペンダントが胸に貼りついていた。

白い貝殻で、縁は丸く、細い金属の輪にはめ込まれ、使い古された鎖に下がっている。呼吸に合わせて軽く上下し、晩春の空気のなかで肌に触れ、ひんやりとしていた。

それは母が遺したものだった。母はもうひとつ、名前も遺してくれた。アンナ。

あなたは十七歳。この牧場で生まれた。

生まれた年、その名前はとくに珍しいものではなかった。母は、その響きが落ち着いていて端正だと言った。風のなかでも立っていられる木のようだ、と。父は反対しなかった。この土地では、名前にそれほど多くの希望を背負わせる必要はない。聖書の余白に書き込めれば、それで十分だった。

牧場は中西部と北の大平原の境にあった。いくつかの土地がつなぎ合わさって小さな町が育つ。牛から搾られる乳のように、それはあなたたちのような牧場主を養い、金を掘りに来た者や流れのカウボーイたちも養っていた。丸太小屋、柵、草地、牛の群れ、そしてこの家。それがあなたのいちばん古い記憶だ。どの床板が夜に鳴るかを知っていた。風の強い日にはどの窓を石で押さえなければならないかを知っていた。春がいつ本当に終わるのかも知っていた。暦を見るのではなく、牛の声を聞いて。

いまが、その時だった。

風はもう穏やかではない。空気には日に温められた草の匂いがする。牛たちは落ち着かなくなり、身体を寄せ合い、毛皮がこすれて低い音を立て、蹄が地面を踏む。餌を探しているだけではなく、何かを急かしているようだった。子どものころから知っている。これが牛追いの季節が来る前触れだ。

1870年代、牛追いには季節があった。

冬は放牧して、牛の体力を保たせる。晩春から初夏にかけてが、道に出る時期だ。その年の鉄道の終点がどこかで、一年分の収入が決まる。男たちは道筋や川や天気や市場を話す。その言葉はあなたの生活にごく早くから現れたのに、一度もあなたのものにはならなかった。

あなたは家のなかの長机のそばに座っていた。

机の表面は、長年のナイフの傷と蠟で荒れている。膝の上には帳簿が広げられ、紙は厚く、角が反っていた。塩、小麦粉、釘、布の消費を炭で書き取っていくと、先が紙をこする細く続く音がした。

これがあなたの場所だった。

あなたは牧場主の娘で、雇い人でもなければ、跡取りでもない。家のなかに置かれている。帳簿と物置のあいだ、竈と食卓のあいだに。

外からは、男たちの声が途切れ途切れに入ってくる。

「今年は鉄道が北へ伸びるかもしれん」 「その終点まで追えりゃ、牛一頭で二ドル余計にとれる」 「去年はあの川で人が溺れた。今年は気をつけないとな」

あなたにはよく聞こえていた。頭のなかで地図を組み立てることさえできた。どの川が春から夏にかけて危ないか、どの草地では牛が痩せるか。牛追いは市場と交通に強く依存する経済行為であり、同時に、男が背負うことになっている冒険でもあった。

たとえば、あなたの父。四十いくつの男で、見た目より老けていて、背はもう少し曲がりはじめている。母が死んでからは口数が減り、言葉のほとんどを金と天気に使うようになった。それから弟のデイヴィッド。十歳。難産のせいで身体が弱く、一年じゅう咳をしている。彼がいずれこの土地を継ぐことを、誰もが当たり前と思っていた。毎年、父が牛を追いに出るあいだ、家を回しているのはあなただというのに。

ここでは家は頑丈で、牛の群れも十分で、あなたの未来はもう整えられているように見えた。けれどその安心のなかで、あなたは気づきはじめていた。自分が、目に見えないどこかの輪の外に置かれていることに。

夕方、父が家に入ってきた。ブーツには草くずがついている。戸口で一度立ちどまり、いま決めたばかりというふうに言った。

「アンナ」と彼は言った。「今年は、おまえも雇い入れに立ち会え」

短い一言だった。それなのに、平らだったあなたの生活のなかに、石のように落ちてきた。

1.2 父の世界と、雇い場

父について庭の門を出たとき、太陽はまだ低かった。

光が東から斜めに草地を切り、夜のあいだに溜まった湿った冷たさを少しずつ剝がしていく。空気には新しい草の甘さと、家畜の温かい生臭さがあった。混ざり合ったその匂いが、子どものころから「家」だった。

ブーツの底が泥に沈んで、小さな音を立てる。露はまだ草の葉に残っていて、スカートの裾がそこをかすめ、すぐに濃い色に染まった。風は強くはないのに、もう硬くなっていた。粗い麻の袖口を通り抜けて腕を這いあがってくる。春が終わりに来たと知らせるように。

牛の群れは柵の向こうにいた。

先に届くのは音だ。そろった鳴き声ではなく、厚みのある、途切れがちな低い唸り。遠くの雷のようだった。そこに落ち着かなさがあるのが聞き分けられる。蹄が地面を掻き、乾いた土が粉になって、熱と糞の匂いを連れて顔に飛んできて、唇の端に細かく貼りついた。

父はあなたの二歩ほど前を歩いていた。

その背中は広く、古い上着は日と雨に晒されて白っぽくなり、肘は擦れて光っている。ふいに気づいた。あなたは父のどの服がどこで擦り切れているかを覚えている。この土地の窪みを覚えているのと同じように。あなたは父の世界をよく知っていて、それを手にしてはいない。

「南の端から数えろ」 父は振り返らず、鞭の先で示しただけだった。

あなたは木の板を脇に挟み、炭を握った。板の縁はざらついていて、手のひらが熱くなる。柵に近づくと、牛の体温が板の隙間から伝わってきた。熱く、湿って、呼吸している。生きている壁のようだった。

あなたは数えはじめた。

視線が一頭の背からもう一頭の背へ滑り、炭が板に短い線を引く。急がなければならないのは分かっていた。牛は動く。光は変わる。人は疲れる。三十何頭目かのところで、黒い牛が急に頭を上げ、濡れた鼻を柵に押しつけて、あなたの手の甲に息を吹きかけた。

父の声がすぐ横で響いた。

「鉄道の終点が北へ動く」 「何日か余計に歩けば、牛一頭で二ドル上がる」

その口調は平らで、天気を告げるようだった。けれど意味は分かっていた。牛は草地で育ち、金は線路のそばで清算される。そのばかげた理屈が、あなたの時代では常識だった。

「カウボーイの賃金も計算に入れろ」 「月に二十五から四十ドル。多く出せば間抜けと思われる。少なく出せば、残るのは使えん奴ばかりだ」

あなたは頭のなかでその数字を換算した。小麦粉、塩、布、釘。そしてふいに理解した。この金が買っているのは忠誠ではない。時間だ。カウボーイがこの道に命を賭けてもいいと思う、その時間だ。

父は足を止め、あなたの記録に目をやった。しばらくして、ようやくうなずいた。

その一瞬、あなたは短い承認のようなものを感じた。胸のなかで炎が立ちあがるように。けれど次の一言が、それをしっかり押し消した。

「おまえはいずれ牧場か店を切り盛りすることになる。妻として、こういうことを覚えておかなきゃならん」

父は、あなたが牧場主か商人に嫁がされることを前提にしていた。銀貨一枚ずつを細かく計算する女になることを。

あなたは反論しない。これまでのどの日も、どの年もそうだったように。

ただうつむいて、父について町へ行った。カウボーイを雇うために。

あなたは、ああいう男たちが嫌いだった。粗野で、汗と酒とたばこの匂いをまとった男たちが。

酒場の横の空き地で、彼らは一群になって立っていた。革のチャップスをはき、先の尖ったブーツは泥だらけ、拍車が足もとで小さく鳴っている。カウボーイハットのつばは雨に打たれて下がり、縁が巻いていた。シャツはだらりと身体にかかり、ボタンがいくつか欠け、布は汗で黒ずんでいる。腰のベルトは幅広く厚く、リボルバーと使い込まれた鞘を下げ、革は傷と油汚れだらけだった。無精ひげが顎と頬に伸び放題で、埃と灰が混じっている。獣の群れだった。風と、牛と、火薬の匂いをさせた獣の群れが、この小さな町の空気を突然占領していた。

彼らは季節に合わせて集まり、風に散っていく。雇用はたいていその場で決まる。合えば道に出る。合わなければ去る。

そしてその男たちのなかに、ひとつだけ違う影が、不意にあなたの視線をつかんだ。

若く、きれいな、整った顔立ちの、清潔で穏やかな目をしたカウボーイ。

1.3 あなたが嫌いだと思った人

あなたが彼女に気づいたのは、馬の短い鼻息のせいだった。

その音は遠くなく、野営地の右手、酒場の外壁沿いから聞こえてきて、板に跳ね返ってほかより明瞭に届いた。思わず顔を上げ、前列の何人かのカウボーイ越しに、人だかりの少し後ろへ目をやる。そこで初めて、ジョセフを見た。

彼女は緩く立っていた。

片脚をわずかに曲げ、ブーツの先を地面につけ、踵は踏み固められた土に沈んでいる。身体の重さを、そのまま土に預けているようだった。屈強なカウボーイたちのなかでその体つきは細く見えたが、弱々しくはない。肩の線はすっきりして、背はまっすぐで、余計な力みがなかった。

濃い色の粗布の上着。日に焼けて色が抜けている。その下は簡素な木綿のシャツで、襟はきちんと留められていた。首にはバンダナ。色はくすんでいて、結び目は低い。風よけに、埃よけに、汗を拭くために。

作業ズボンは膝と内腿が擦れて光っている。長く馬に乗ってきた証だ。裾はブーツに入れてある。ブーツは硬い革で、埃はついていても泥の塊はなく、つま先は丸く擦れ、踵側は拍車の位置にだけはっきりと使い込みの跡が残っていた。

つばの広いカウボーイハットをかぶっている。つばはわずかに巻いているのに、きれいに整えられていて、額を隠すのにちょうどよく、光が落ちてきても目を刺さない程度だった。

あなたは、彼女の清潔さに気づいた。

清潔で、きちんとしている。上着は擦り切れていても丁寧に繕われ、ブーツは埃をかぶっていてもだらしなくはない。酒場によくある混ざった匂い——酒、汗、たばこ——がしない。あるのは日に温められた革の匂いと、かすかな草木の気配だけだった。

そして、顔を見た。

その瞬間、あなたのなかに、あまり上品とは言えない考えが浮かんだ。きれいすぎる。

その顔立ちはふたつの世界のあいだにあった。眉の骨は白人より高く、それでいて輪郭は粗くない。肌の色は濃く、日の光のなかで温かい色みを帯びている。目は細く長く澄んでいて、風が何度も渡った水面のようだった。鼻筋はまっすぐで、唇の線ははっきりしていて、笑ってもいないのに、自然と緩みがあった。

あなたはすぐに気づいた。彼女は混血だ。先住民と白人の。

この土地で、そういう血筋は珍しくもなく、けれど本当に歓迎されることもない。混血は不安定を意味し、どちらにも完全には属さないことを意味する。それなのに、そこに立つジョセフは異様に落ち着いていた。ふたつの材質のあいだに打ち込まれて、それでもぐらつかない楔のように。

彼女はあなたの視線に気づいて、顔を上げた。

ほんの短い一瞥だった。

「ジョセフ」

彼女は帽子を取り、あなたに簡単に会釈した。その目はあなたの顔をかすめ、とどまりもせず、避けもせず、値踏みでもなかった。あなたがそこにいることを確かめて、それで十分だというように。それからすぐにうつむいて手綱を直すと、革が指のあいだで小さくこすれる音がした。

それでもあなたは目を離せなかった。その感じが、嫌だった。

だから頭のなかで、すばやく彼女を決めつけた。見せかけだ、と。

若すぎる。清潔すぎる。きれいすぎる。

西部では、きれいであることは決して強みではない。それは覚えられ、目をつけられ、試されることを意味する。子どものころからそれを知っていた。なのにジョセフはそこに立って、その危険をまったく気にしていないように見えた。というより、その落ち着きそのものが、危険の見誤りのように見えた。

あなたはその落ち着かなさを、軽蔑に変えた。

風が南から吹いて埃を巻きあげ、細かい粒が手首に落ちて、かすかに痒かった。低い笑い声、金具の触れ合う音、酒場の扉が押し開けられて閉まる「バン」という音が、現実をもとの位置に引き戻した。

それでも、あなたはもう一度彼女を見ずにいられなかった。

ジョセフはカウボーイたちの真ん中にいながら、その輪に入ろうとはしなかった。大声で話さず、冗談にも加わらない。誰かが話しかけると、うなずくか、短く答えるだけで、声は低く平らで、大げさな抑揚も、わざとらしい粗さもなかった。

そしてふいに分かった。本当にあなたを落ち着かなくさせているのは、彼女の見た目ではないのかもしれない。それは、あなたの知っているどれとも違う気配だった——

牧場の安定でもなく、酒場の浮ついた空気でもなく、長く移動し続けたことで磨かれた静けさ。

そして、自由。

あなたは自分に言い聞かせた。この人を嫌うべきだ、と。

けれど、心の底では分かっていた——

認めたくないその匂いこそが、あなたが一度も持ったことのないものだった。

1.4 試し

あなたは父と一緒に、カウボーイの騎乗試験を見に行った。野営地の外側の、開けた土地で行われていた。

そこは競技のために作られた場所ではなく、町のはずれの、蹄に何度も踏み固められただけの一角だった。地面はわずかに西へ傾き、乾いた土は白っぽく固まり、ひび割れが古傷のように表面を這っている。太陽はもう高く、遮るものもなくまっすぐに落ちてきて、革も金属も汗も、いやに明瞭に見えた。

これも雇用の一部だった。

この時代、カウボーイは評判で食う人間ではない。誰も口だけの話は信じない。雇い主は、その身体の使い方を自分の目で見なければならない。馬に安定して乗れるか、速く追えるか、混乱のなかで牛を抑えられるか。だから試乗も、追い込みも、投げ縄も、見世物ではなく、必要な検査だった。

馬が一頭ずつ引き出されてくる。あなたは一目で道具が分かった。

鞍は西部でよくある型で、鞍橋が高く、前方の鞍頭は投げ縄で力を受けるために何度も擦れて光っている。鞍下の毛布は厚く、縁は毛羽立っていて、長い行程で馬の背が擦り切れないようにするためのものだ。ブーツはたいてい硬い革で、筒が高く、鐙に引っかけやすい。帽子はつばが広く、日と雨をよけ、落馬したときに多少は頭を守る。

ほかの人にはただの道具でも、あなたにはそれが記憶だった。

その重さを覚えている。

手のひらに触れる革の感触も。最初は硬く、やがて体温にゆっくりと馴らされていくことも。

鐙が沈むとき、ふくらはぎの筋肉が反射で締まることも。

手綱が張ったとき、馬の口から返ってくる、生きた力も。

母がまだいたころのことだ。

あのころあなたは小さく、父は早朝にあなたを馬の背に抱きあげた。空気は冷たく張りつめていて、父の背に頬をつけると、服から汗と草の混じった匂いがした。父は、脚で馬の腹を締める方法を、手ではなく脚で方向を伝える方法を教えた。そのうち狩りにも連れていくようになり、銃の構え方、狙い方、引き金の絞り方を教えた。あなたは覚えるのが速く、父は笑ってこう言ったこともある。おまえが男だったらよかったのにな、と。

そして母が死んだ。

そのあと、厩はあなたにとって立入禁止の場所になった。父は鞍具をしまい、銃に鍵をかけ、あなたを家のなかに置いた。馬に乗ること、撃つこと、走ること。それらは二度と口にしてはならない昔話のように、まとめて埋められた。

けれど、本当に忘れたわけではなかった。

父が牛追いに出ているあいだ、あなたはこっそり隣の牧場へ行った。年を取った牧場主は口数が少なく、姿勢を直すだけだった。彼はあなたに何度も乗らせ、何度も撃たせた。動きが力ではなく制御から出てくるようになるまで。あなたはその記憶を深く隠していた。いつ取りあげられてもおかしくない武器を隠すように。

いま、そのすべてが呼び起こされていた。

最初の種目は試乗だった。

カウボーイたちが順に馬に乗り、決められた範囲のなかで加速し、方向を変え、急停止する。蹄の音が空き地に反響し、初めは鈍い打撃音が、やがて速く密な拍に変わる。埃が舞いあがり、脛やブーツに当たった。細かくて、熱い。

あなたにはあまりにもよく見えた。

曲がるときに身体が外へ倒れすぎて重心を崩す者。手綱を引きすぎて、馬の頭が無理に曲げられ、不服そうな嘶きを上げさせる者。あなたは頭のなかでひとりずつ評していた。ほとんど本能のように。

急ぎすぎだ。いまのはもっと安定させられる。あの人は力を使っている。制御ではなく。

次は追い込み。

若い雄牛が放たれ、すぐに空き地の反対側へ走り出した。蹄が硬い地面を叩き、はっきりと切迫した音を立てる。鼻孔を広げ、白い息を吐いている。カウボーイたちが馬を駆って追い、速さで押しきろうとする者もいれば、進路を断とうとする者もいた。

あなたには違いが分かっていた。いちばん速く走る人間が勝つわけではない。牛が次にどちらへ寄るかを読めるようにならなければいけない。

そして投げ縄。

縄が振りあげられ、空中に輪を描く。麻縄が風を切り、短い唸りを立てる。手もとが狂って輪が空を切り、地面を打って埃を上げる者。輪をかけられたのに、すぐには抑えきれず、牛に引きずられて数歩前へ出てしまう者。

あなたの鼓動が、異様にはっきりしてきた。

胸のなかで打つそれは、狭い谷に響く蹄の音のようだった。自分が馬上にいる重さを、手綱が指のあいだをこする感触を、ほとんど感じ取れるほどだった。

そして、ジョセフの番が来た。

彼女は先を争いもせず、引き延ばしもしなかった。馬に乗るとき、その動きは軽く、余計な音がほとんどしない。馬は彼女の下ですぐに静かになった。慣れた合図を受け取ったように。

試乗が始まっても、彼女はすぐには加速しなかった。

まず馬にリズムを見つけさせた。方向を変えるとき、その身体はほとんど動かない。力は脚と腰から下へ伝わっていく。清潔で、まっすぐに。あなたは彼女の手に気づいた。引っ張ってはいない。手綱はずっと、ちょうどいい張りを保っていた。

追い込みでは、彼女はいちばん短い線を選んだ。

いちばん危ない線でも、いちばん安全な線でもない。牛が向きを変えようとすると、半馬身ぶん先に角度を直した。そうすると初めから知っていたように。

投げ縄が手を離れた瞬間、あなたは息を止めかけた。

輪は空中で余計な揺れもなく開いた。かけたあとも、彼女は見せびらかさず、引き延ばしもせず、すばやく締め、抑え、止めた。一連の動作があまりに速く終わったので、まわりのざわめきは一拍遅れて追いついてきた。

彼女が勝った。

運もよく、力の出し方もよく、制御が強い。すべてがちょうどよかった。彼女は本当に優秀なカウボーイだった。

あなたはそこに座ったまま、無意識に帳簿の縁を握りしめていて、紙がわずかに曲がっていた。固いと思っていた自分の判断に、この瞬間、はっきりと亀裂が入った。

あなたは初めて気づいた——

最初から、彼女を見誤っていたのかもしれない、と。

1.5 難しい選択

試験が終わっても、空き地はすぐには静かにならなかった。

馬はまだ荒い息をしている。熱が鼻孔から一度ずつ噴き出して、日の光のなかでほとんど形が見えた。革が外され、また留められ、金具がぶつかって、澄んではいるが疲れた音を立てる。馬の首を叩く者、低く悪態をつく者、帽子を脱いで手のなかで何度も揉み、汗を絞り出そうとする者。

太陽はもう西へ傾きはじめていた。

光は低くまっすぐになって酒場の側から差し、誰の影も長く引き伸ばす。影は地面で重なり合い、またゆっくり離れていく。散らされたばかりで、まだ完全には去っていない家畜の群れのように。

賞品が出された。

大したものではない。競技の名が刻まれた銀貨が一枚と、新しい投げ縄が一本。

銀貨が空気のなかで軽く鳴った。短く、はっきりした音だった。縁はもう擦れて丸くなり、表の肖像が日に照らされて光っている。投げ縄は新しい麻縄で、色は淡く、撚りは固く、まだ生硬な匂いがした。

ジョセフはそれを受け取るとき、掲げてみせることもなく、笑いもしなかった。

ただ銀貨を指のあいだで一度まわして、手のひらに握り込んだ。縄はそのまま肩にかけた。その動きはあまりに自然で、初めから彼女のものだったようだった。その瞬間、あなたは気づいた。彼女はこういうもので何かを証明する必要がないのだ、と。

そのまま行ってしまうものと思っていた。

けれど、うつむいて帳簿を整え直すより先に、光が変わった。

誰かが目の前に立っていた。

近すぎはしないのに、膝に落ちていた日差しをちょうど遮っている。顔を上げると、ジョセフが立っていた。しっかりと立ち、両足を開き、重さが均等に地面に落ちている。かがみもせず、わざと声を低くすることもなく、ただ立っていた。

「あんたに」

彼女はそれを差し出した。

まず銀貨。金属は空気のなかでわずかに冷たかった。それから投げ縄。輪はすでに整えられていて、ほどけていない。

あなたはすぐには受け取らなかった。

「あなたが勝ったものでしょう」とあなたは言った。声は思っていたより軽くなった。

「もう勝った」と彼女は答えた。

その言い方は平らで、余計な強調がなかった。すでに起きた事実を述べるように。

あなたは少し迷って、それでも手を伸ばした。

指先が短く触れたその瞬間、彼女の視線があなたの手に落ちた。

はっきりと見られた。

あなたの指は細くない。手のひらにも指の付け根にも胼胝がある。その並びには覚えがあった。手綱に何度も擦られてできた跡、銃床に押されてできた硬いしこり。普段はほとんど意識しないのに、この瞬間、それがあまりにあらわに見えていることに気づいた。

彼女は、見た。

「わたしのこと、嫌いだろう」

まっすぐな言い方だった。

あまりに直接で、表情を隠す間もなかった。

彼女は最初からそれを見越していたようだった。口の端がわずかに動いたが、笑みとは言えない。

あなたは何を否定すればいいのか分からなかった。実際、彼女のことは好きではない。少なくとも、自分にはずっとそう言い聞かせてきた。

「でも、しばらく組むことになる」

振り向くと、父がもう帳簿に何かを書きつけていた。さっきの競技のあとで、話がついたのは明らかだった。

ジョセフはもう一度、あなたの手を見た。

「馬に乗れる女が好きだ」と彼女は言った。

風がふたりのあいだを通り抜け、埃を巻きあげてスカートの裾に貼りつけた。彼女の声は吹き散らされず、かえってはっきり聞こえた。

「手が違うから」

からかいでも、探りでもなかった。その口調は落ち着いていて、ごく当たり前のことを言っているようだった。ふいに、彼女が馬を扱っていたときの姿が浮かんで、あなたは知らない種類の落ち着かなさを覚えた。

うまく隠していたつもりの部分を、そっとめくられたような。

あなたは腕のなかのものに目を落とした。銀貨は軽いのに、たしかにそこにある。投げ縄の麻が腕に押しつけられて、ざらついて、固い。

そのとき、少し離れたところから父の声がした。

「いいだろう、賃金は安いのに腕がいい」

この土地では、その二言はどんな褒め言葉より重い。けれど父はもう一言つけ加えた。

「顔も、娘たちを喜ばせる」

ジョセフはただ笑ってうなずき、何も言わなかった。背を向けて馬のほうへ歩いていく。踵が地面を打つ音が、はっきりと規則正しく響いた。彼女は縄をまた肩にかけ直し、手を伸ばして馬の首をなでた。馬が低く息を吐いた。応えるように。

あなたはその背中をずっと見ていた。

夕日に影が長く引き伸ばされ、前へ伸びて、ちょうど草原へ続く方角を指していた。

あなたは落ち着かなさを覚えた。そして、否定しようのない好奇心も。

銀貨は手のひらのなかでゆっくり温まり、投げ縄の麻が腕に載っている。重くはないのに、たしかにそこにある。これはただの雇用ではなかった。ただの出会いでもなかった。

けれど、あなたが考えをまとめるより先に、運命はもう方向を決めていた。

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