ローマの聖火を守る者たち——ウェスタの巫女とは何か
ウェスタの巫女はローマの聖火を守る女祭司たちだった。どう選ばれ、どんな特権と禁忌を持ち、そしてなぜ終わりを迎えたのか。
ウェスタの巫女(Vestal Virgins)とは、いったいどういう存在だったのか。キリスト教の修道女や、神道の巫女といった聖職者たちと、どこが同じでどこが違うのか。今回は、ローマ時代のこの特別な女祭司たちの生活を少しだけご紹介します。

一、ウェスタの巫女とは
ウェスタと、絶えない火
ウェスタ(Vesta)は古代ローマの竈と家の女神で、その炎は、ローマと神々のあいだの契約(pax deorum)の目に見えるかたちでした。ウェスタの巫女は、この女神に仕え、ローマ国家の「聖火」を守る高位の女性祭司階層です。

少女から巫女へ——選抜と就任
ウェスタの巫女はふつう六歳から十歳のあいだに選ばれます。条件はきわめて厳しく、両親がともに存命であること、本人に身体的な欠けがないこと。候補者は元老院と最高神祇官(Pontifex Maximus)が、ローマの上流社会から選び出しました。決まると、最高神祇官が彼女を家から「連れ出し」ます。その時点で、彼女は法的に生家と完全に切り離され、あらゆる男性の後見から永久に解かれ、その身分のまま三十年、女神に仕えることになります。

都市の存亡の土台。 巫女たちの最も中心的な務めは、ウェスタ神殿の内陣の聖火を昼も夜も絶やさないことでした。ローマ人は、この炎こそがローマという都市の生命力と国家の安全そのものだと固く信じていました。聖火がいったん消えれば、ローマは神々の加護を失い、都市も倒れる、と。
神聖な誓い。 聖火を守るこの三十年のあいだ、巫女たちは純潔の誓いを守らなければなりませんでした。その身体と力はローマ国家に完全に捧げられたものとみなされ、だからこそ、いかなる世俗の家族にも婚姻にも属してはならなかったのです。

二、法の外にある力の孤島——ローマの「職業エリート」にして独立した財産の持ち主
法的に完全な自治。 ウェスタの巫女になった瞬間、彼女たちは法的にあらゆる家長と家族の支配(patria potestas)から完全に離れました。解放の手続きを経る必要もなく、権利を減らされることもなく、同時に遺言を作る権利を得ます。
帝国の国立文書館にして、最高の公証人。 ウェスタの巫女はローマで最も高い水準の外交的・法的な役割を担っていました。その地位がきわめて神聖で、絶対的に中立とみなされていたため、ローマの最重要機密文書、重要な国際条約、そしてローマ皇帝を含む貴族たちの最終的な遺言までが、すべて彼女たちに預けられ、必要なときには元老院で読み上げられたのです。
きわめて高い社会的特権と政治的関与。 コロッセウムのような公共空間では、彼女たちには専用の特別席がありました。ローマが内戦や政治的危機で揺れた時期には、和平の使者として調停に立つことさえあり、その発言には最高権力者すら敬意を払わなければなりませんでした。この力は親族や家柄に依存するものではなく、ローマという都市そのものを象徴的に代表する地位から直接来るものでした。

神聖さの裏にある縛り
巫女への罰は、おもに二つの場合に下されました。ひとつは、守るべき聖火を消してしまったとき。当番の巫女は鞭打ちを受けます。もうひとつは、純潔の誓いが破られたとき。こちらの罰ははるかに過酷で、地下の小部屋に生き埋めにされました。しかも血を流してはなりません。彼女たちの血は神聖なもので、刃にかけてはならないとされたからです。共犯者のほうは広場で公開のうえ打ち殺されました。

三、歴史のなかで動いた人たち——名を残したウェスタの巫女
千年続いたこの古い祭司階層からは、ローマ史の転換点ごとに、深い痕跡を残した女性たちが現れています。
レア・シルウィア(Rhea Silvia)——ローマ起源の巫女
神話の層では、レア・シルウィアは王ヌミトルの娘で、王位を簒奪した叔父によって、正統な後継者を絶やすために巫女にさせられました。のちに軍神マルスによって身ごもり、ロムルスとレムス——ローマの二人の建国者を産みます。巫女の制度はローマの起源神話の中心に置かれており、その神聖な地位は最初から定まっていたのです。

オッキア(Occia)——共和政から帝政へ、舵を取りつづけた人
オッキアは首席巫女(Virgo Vestalis Maxima)を五十七年間務めました。就任は紀元前38年ごろ。つまりその任期は、ローマ史でもっとも激しい政治の断層を貫いています。カエサル暗殺後の内戦、オクタウィアヌスによるアントニウスとクレオパトラの打倒、ローマ帝国の正式な成立、そしてアウグストゥス治世の全期間。

不思議なことに、ウェスタ神殿は、政権が入れ替わっても制度の連続性を保ちつづけた唯一の国家機関でした。統治者が誰であろうと、誰が誰を殺し、誰が誰を倒そうと、オッキアとその神殿は、変わらず皇帝の遺言を預かり、国家の文書を保存し、聖火を絶やさずにいたのです。オッキアは五十七年という任期で、その連続性を自分の身で担いました。
コエリア・コンコルディア(Coelia Concordia)——最後の首席巫女
コエリアは平民の家の出で、ウェスタの教団のなかで段階を踏んで昇り、ついに教団の長——首席巫女(Vestalis Maxima)になりました。ローマの国家宗教と社会において、最高位のひとつです。考古学者はローマのエスクィリーノの丘で、彼女の像の台座を発見しました。銘文によれば、この像は当時のもうひとりの高位の貴族女性、ファビア・パウリナ(Fabia Paulina)が彼女のために建てたものでした。

紀元394年ごろ、キリスト教徒の皇帝テオドシウスがウェスタの聖火を強制的に消させ、教団を正式に解散させます。ローマで千年燃えつづけた炎は、そこで消えました。聖火が消えてから十五年とたたない410年、西ゴートの王アラリックがローマを略奪します。古い予言が、そのとおりになったのです。コエリアは、ローマ全体を代表して神々に誓いを立ててきた女性として、自分の守ってきたすべてが終わっていくのを、その目で見ることになりました。

おわりに
ウェスタの巫女たちの内面について、歴史が残したものは多くありません。聖火を守り、特別な地位を持ち、いくつもの重要な歴史の場面に現れたことは分かります。けれど、あの長く静かな年月のなかで、彼女たちがどう暮らし、互いにどう接していたのかを記録した人は、ほとんどいませんでした。
だからこそ、想像の余地が残っているのかもしれません。三十年を共に過ごし、ひとつの炎を共に守り、人生のいちばん長い時間を共にする——彼女たちだけの神殿のなかで、いったい何があったのでしょうか。
クラウディアは、そういう問いのなかから生まれました。彼女は首席巫女であり、同時に生きた人間でもあります。力を持ち、そして簡単には断ち切れない感情も持っている。姉がいて、娘がいて、守りたい人がいた。けれど彼女のそういう部分は、すべて聖火に隔てられてしまいました。その炎は、彼女の力であり、同時に枷でもあったのです。
物語の背景
この記事は、オリジナル小説『女剣闘士の死』のための調査ノートです。『女剣闘士の死』はトラヤヌス帝時代のローマを舞台に、ひとりの女剣闘士の死をめぐって、帝国の秩序と、崩れていく信仰と、女たちの運命を五幕で描きます。この記事の中国語原文は罗马的圣火守护者:维斯塔贞女にあります。