星を拾い集めた女——アニー・ジャンプ・キャノンは、いかにして35万の恒星に居場所を与えたか
恒星はなぜ O、B、A、F、G、K、M に分けられるのか。いまも使われるハーバード分光分類は、ハーバード天文台のアニー・ジャンプ・キャノンが築いたものだ。一分間に三つの星を分類し、生涯でおよそ35万の恒星を記録した。太陽も、彼女の体系ではひとつの G 型星である。
いまの天文学者は恒星を O、B、A、F、G、K、M の七つの型に分けます。世界じゅうで使われているこの「ハーバード分光分類」は、ハーバード天文台のアニー・ジャンプ・キャノン(Annie Jump Cannon)という女性の手から生まれました。彼女は何十万という星の入り乱れたスペクトルに順序を与え、生涯でおよそ35万の恒星を、自分の手で記録しています。わたしたちの頭上の太陽も、彼女の体系ではひとつの「G 型星」です。

一、床に散らばった宇宙の暗号
巨大な図書館の扉を押し開けたら、何億冊という本のページがすべて引き裂かれ、混ざり合って床に撒かれていた——しかもそれが全部、読めない異星の言葉で書かれていた。そう想像してみてください。
二十世紀初めの天文学界が向き合っていたのは、まさにそんな頭の痛い星空でした。
当時すでに、プリズムという道具で星の光を「割る」ことができると知られていました。ふつうの星の光をプリズムに通すと、細い暗い線がたくさん走った色の帯になります。これを「スペクトル」と呼びます。
スペクトルは、星ごとの「バーコード」のようなものです。暗い線の一本一本が、その星の内部で燃えている特定の化学元素を表しています。
けれど問題は、空には何千億という星があり、恒星ごとにスペクトルが大きく違い、どの星のバーコードもそれぞれ違う形をしていることでした。この無秩序なバーコードを整理しないかぎり、人類は宇宙という書物を読むことができません。
二、ガラス乾板の前で星の光を読む
1896年、ハーバード大学天文台のアニー・キャノンが、この星の台帳づくりという途方もない仕事を引き継ぎました。
彼女の前にあったのは果てしない夜空ではなく、冷たい写真用ガラス乾板の山でした。南北両半球の望遠鏡——そのひとつは遠くペルーにありました——が星空を撮り、どの乾板にも、数百の星の、長さ数ミリしかない小さな「バーコード」がびっしり詰まっていました。

彼女は小さな虫眼鏡を手に、白黒の線の上に目をすばやく走らせました。
キャノンには驚くべき集中力と、パターンを見抜く才がありました。彼女の目には、その乾いた線は硬直したデータではなく、性格をもった生きものでした。水素の特徴が太く荒々しい星もあれば、カルシウムの細かな模様が一面に走る星もある。何十万組もの線のなかから、彼女は自然が隠した法則を探そうとしていたのです。
その気質は母親ゆずりだったようです。キャノンに最初に星を教えたのは、母親でした。女の子に早く結婚して子どもを産むことを勧める時代に、母親は古い天文学の教科書で星の見分け方を教え、自分の興味を追いかけて、数学と化学と生物学を学ぶよう励ましました。
三、星空の秩序を並べ直す
キャノン以前、人々は星をアルファベットの A から Q までで無理やり分類しようとしていましたが、その体系はひどく煩雑で、つぎはぎで、矛盾だらけでした。
何万枚という乾板を見たあとで、キャノンは思い切った決断をします。人がつくった古い決まりを捨てて、星自身に規則を示させよう、と。
重複した分類、余計な分類を大胆に切り落とし、残った型をいったんばらばらにして、きわめて簡潔で優雅な並びを新しく打ち立てました。O、B、A、F、G、K、M。
膨大な数の乾板を読んだことで、キャノンは気づいていました。このバーコードの並び方の論理は、実は星の「体温」なのだと。
- O の端に並ぶのは、青い炎を燃やす、きわめて激しい高温の巨星。
- そこから M の端へ移るにつれ、穏やかな赤い光を放つ、温度の低い年老いた恒星になる。

四、一分間に三つの星
この土台の座標系が定まると、キャノンは驚くべき実行力を見せました。
何十年ものあいだ、彼女はほとんど毎日あの木の机に座っていました。助手がペンを持ってそばで待ち、キャノンは虫眼鏡越しに乾板のスペクトルの縞をひと目見るだけで、その星の型を一瞬で判断しました。
「G5! K0! A2!」
いちばん速いときには、一分間に三つの恒星を分類できました。
さらに見事なのは、それほど激しく手と目と頭を使いながら、分類の誤りがほとんどなかったことです。
生涯で、彼女はおよそ35万の恒星について、はっきりした記録を自分の手で作りあげました。
当時の望遠鏡がはっきり撮れた星は、ほとんどすべて彼女の目を通り、彼女の名簿に収められたのです。

ついでに言えば、彼女は前回取り上げたヘンリエッタ・リービットの同僚であり、友人でもありました。
これもまた運命のめぐり合わせかもしれません。キャノンとリービット、この世代のハーバード天文台でもっとも重要な二人の女性天文学者は、どちらも若いうちに聴力を失っていました。
けれど、しだいに音を失っていったこの二人の女性が、あの時代に、沈黙したガラス乾板の一枚一枚の上で、宇宙の秩序を組み上げたのです。
ひとりは星を測り、もうひとりは、星を拾い集めた。

五、分類することは、世界を理解するやり方
彼女が打ち立てた OBAFGKM の並び(ハーバード分光分類)は、いまも世界じゅうの天文学者が使う黄金の標準です。わたしたちの頭上の太陽も、彼女の体系ではひとつの「G 型星」です。
のちに、ひとかたまりの混沌だった何十万もの星が O から M までの並びにきちんと収まったとき、恒星の進化の法則が、ふいに人類の前に開かれました。物理学者たちは彼女の整えたこの巨大な系譜を見て、ようやく、恒星がどう生まれ、どう燃え、どう死ぬのかという一生の全体を解き明かしたのです。
アニー・キャノンは人生の大半をあの静かな事務室で過ごし、1941年に亡くなる数週間前まで、天文学の研究を続けていました。
アメリカ天文学会は毎年「アニー・ジャンプ・キャノン賞」を授け、天文学に優れた貢献をした女性天文学者を讃えています。2019年には、アメリカ造幣局の「アメリカン・イノベーション」1ドル硬貨のデラウェア州版(キャノンはデラウェア州の生まれです)が彼女を主題にし、硬貨には「Classifying the Stars(星を分類する)」と刻まれました。

画像の出典
この記事の画像は公開資料から整理したものです。若いころのアニー・ジャンプ・キャノンの肖像写真、観察台で乾板を調べる写真、ハーバード天文台の戸口でヘンリエッタ・リービットと並んだ写真は、公開されている歴史写真です。冒頭の肖像イラストは後年に描かれたものです。恒星のスペクトル分類図はネット上に出回っている作り直しの図で、キャノンが定めた O、B、A、F、G、K、M の七型のほかに、のちに加えられた W、L、T、Y 型と、正式な分類ではない仮想の「H 型」も描かれています。硬貨の画像は、アメリカ造幣局が2019年に発行した「アメリカン・イノベーション」1ドル硬貨デラウェア州版の公開宣伝画像によります。
物語の背景
この記事は、オリジナル小説『ゴリアテ号が沈む前に』のための調査ノートで、シリーズ「女性と星の海」の二本目です。一本目はヘンリエッタ・リービットでした。小説のケイビルの民は、宇宙を記録することで生きる流浪の星図製作者です。キャノンがしたのも同じ仕事でした——混沌とした星の光を、一つひとつ、あるべき場所へ戻していく。そうしてはじめて、未知は理解できるものに変わったのです。この記事の中国語原文は拾起星星的女人にあります。